カンカエキスのマウスリンパ細胞機能に及ぼす影響

カンカエキスはTリンパ細胞機能を亢進させ生体の免疫機能を高めた。本試験結果はカンカの生体免疫調節作用メカニズムに関連すると考えられる。

張洪泉1 黄利興2 李征3
(1.揚州大学医薬研究所  2.和田帝辰沙生薬物開発有限公司 3.株式会社栄進商事)
Experimental Study into the Effect of Cistanche tubulosa extract on the Immune Function of Mice

はじめに

カンカ(学名:カンカニクジュヨウ、Cistanche tubulosa(Schenk)R.Wight)は俗称“砂漠人参”で、主に中国の新疆天山南部のタクラマカン砂漠に分布する。宿主の紅柳(Tamarix sp)は風や砂塵に強く、耐塩性にも勝れる[1]。補肝腎や精気補給、補腎強壮および抗老化等の効能が知られ、滋養強壮効果に優れた生薬として臨床的に常用されている。また、カンカの抽出物には、免疫調節作用の他に抗フリーラジカル損傷作用や雄性ホルモン様作用 [23]などさまざまな薬理作用が認められている。

今回、カンカの免疫調節作用メカニズム研究の一環として、カンカエキスのTリンパ細胞とサイトカインにおよぼす影響を検討した。 マウスを正常群,対照群,カンカエキス投与群に分け、被験物質を8日間連続投与後、マウスの胸腺と脾臓の重量を秤量した。また、MTTアッセイ法によりTおよびBリンパ細胞の増殖能を検査した。更に、2, 4-ジニトロクロロベンゼン(DNCB)誘発遅延型アレルギー反応,ABC-ELISAアッセイ法によるインターロイキンIL―2の測定,フローサイトメトリー(FACS)解析法により脾臓リンパ細胞のCD4+/CD8+比を検討した。結果、カンカエキスはマウスのリンパ細胞免疫機能を増強し、リンパ細胞の免疫サイトカインの産生を促進した。一方、正常マウスの胸腺、脾臓重量には著明な影響は認められなかった。本試験で、カンカエキスはリンパ細胞の機能を促進させ、マウスの免疫を増強したことが確認された。

カンカエキスのマウスリンパ細胞試験

まず、無作為に雌雄ICRマウス(体重18-22g,揚州大学実験動物センターより提供;合格番号:SYXK(蘇):2002-0045)を5群(n=10)に分け、体重10g当たり0.2mlの液量で8日間経口投与した。正常群には生理食塩水を与え、対照群には補中益気湯(黄耆20g,党参10g,白朮10g,当帰10g,陳皮6g,甘草5g,升麻3g,柴胡3g)を投与した。カンカエキス投与群にはそれぞれ、高投与量40mg/kg,中投与量20mg/kg,低投与量10mg/kgを投与した。カンカエキスは和田帝辰沙生薬物開発有限公司より提供(ロット番号:20060205)されたものを使用した。

最終投与の翌日にマウスの体重を測定,致死後に脾臓と胸腺を摘出して重量を秤量して下記の計算式に従い、脾臓係数(脾臓重量(mg)×10 / 体重(g))と胸腺係数(胸腺重量(mg)×10 / 体重(g))を求めた。

遅延型アレルギー反応(DTH)

3日間 DNCBを投与した後、マウスの腹部を3cm×3cm除毛し、直前に作成したDNFB-アセトン-オリーブ油溶液(100μl)を塗布して感作した。5日後に10g/L DNFB-アセトン-オリーブ油溶液を右耳に塗布した。24時間経過後、脱臼致死後、両耳翼より直径8mmの耳翼片を摘出して秤量し、両耳の重量差を腫脹度とした。

T、Bリンパ細胞増殖反応の測定[4]

細胞濃度5×106/mLの脾臓細胞懸液を調整して96穴プレートに100 mlずつ分注後、二つの穴に100 mlのConAを添加して(終濃度:6 mg/ml)Tリンパ細胞の増殖を刺激した。また他の二つのプレートには100mlのLPSを添加して(終濃度:10mg/ml)Bリンパ細胞の増殖を刺激した。各サンプルは3回、平行に添加した。ブランク穴にはそれぞれ100 mlの細胞懸液と培養液を添加し、37℃,5% CO2で48時間培養した。その後、上澄100 mlを除去し、10 mlのMTT溶液(5 mg/ml)を加え、振とう機で1分間振とう後、37℃,5% CO2で2時間培養した。その後で遠心処理後(2000rpm, 5min)上澄を除去して120 mlの無水エタノールを添加し、30秒間振とう後、570 nmの吸光度を測定した。

脾臓細胞懸液を10% FCSを含有するRPMI-1640培養液で5×106/mlに希釈し、24穴プレートに1mlずつ分注した。終濃度3mg/mlになるようにConA溶液を添加して、37℃,5% CO2で24―48時間培養し、遠心処理後(2000rpm,10min)メンブランフィルター(0.45 mm)でろ過後IL-2試料溶液とし、マウスIL-2ELISAキットで測定した。

免疫蛍光標識法およびフローサイトメトリー法より測定した。マウスのT細胞抗体とCD3e抗体をFITCおよびPEで標識し、抗マウスCD8(Ly-2)抗体でマウスT細胞の表面標識を測定した。

各群の有意差検定にはt-test法(SPSS12.0)を使用し、データを平均値±標準偏差で示した。

カンカエキスのマウス胸腺と脾臓に及ぼす影響

脾臓係数、胸腺係数の変化を表1に示した。カンカエキス投与群と補中益気湯投与群の胸腺係数と脾臓係数は正常群と比べて有意な変化は認められなかった。

1.  カンカエキスの胸腺係数 (TI) 脾臓係数(SI)及ぼす影響 (±S, n=10)

用量

(mg/kg)

体重(g)

SI

(mg/g)

TI

(mg/g)

正常群

20.1±1.21

28.6±2.64

2.33±0.31

3.67±0.91

カンカエキス(低投与量)

10

20.3±1.41

28.4±2.79

2.33±0.30

3.70±0.90

カンカエキス(中投与量)

20

20.2±1.25

29.6±2.26

2.34±0.35

4.01±0.92

カンカエキス(高投与量)

40

20.3±1.27

29.8±2.46

2.34±0.32

4.02±0.90

補中益気湯

20.4±1.19

29.2±2.31

2.33±0.31

4.00±0.90

 

リンパ細胞増殖及び遅延型アレルギー反応に及ぼす影響

カンカエキスはT,Bリンパ細胞の増殖機能を促進する。遅延型アレルギー反応(delayed-type hypersensitivity, DTH)にはT細胞が重要な役割を果たし、抗原提示細胞を介して抗原情報を受けたT細胞が様々なサイトカインを産生・放出し、これにより好酸球やマクロファージが集積して遅延型の炎症反応を起こす。カンカエキスはマウスの両耳の重量差を用量依存的に増加し遅延型アレルギー反応を亢進させ、高用量投与群では補中益気湯とほぼ同等になった(表2)。

2. カンカエキスの遅延型アレルギー反応及びT,Bリンパ細胞増殖に及ぼす影響

用量

(mg/kg)

動物数

(匹)

両耳重量差

(mg)

T

(A570)

B

(A570)

正常群

10

6.33±2.21

0. 60±0.061

0.327±0.047

カンカエキス(低投与量)

10

10

8.57±3.59

0. 66±0.070

0.330±0.046

カンカエキス(中投与量)

20

10

11.02±3.69*

0.74±0.013*

0.471±0.062

カンカエキス(高投与量)

40

10

11.35±3.58*

0.75±0.012*

0.606±0.057*

補中益気湯

10

11.41±4.01*

0.75±0.014*

0.699±0.277*

* P<0.05, ** P<0.01 (正常群との比較)

 

IL-2及びリンパ細胞表現型に及ぼす影響

カンカエキスは脾臓リンパ細胞のIL-2分泌を促進し、CD4+リンパ細胞の応答も促進してCD4+/CD8+比を増加した。

3. カンカエキスIL-2及びリンパ細胞表現型に及ぼす影響

用量

(mg/kg)

IL-2

(ng/ml)

CD4+(%) CD8+(%) CD4+/ CD8+(%)

正常群

2.32±0.35 36.73±2.204 23.52±2.215 1.562±0.163

カンカエキス(低投与量)

10

2.25±0.28 37.12±1.469 23.50±1.528 1.580±0.114

カンカエキス(中投与量)

20

2.67±0.65* 39.32±1.116* 22.63±1.506* 1.737±0.126*

カンカエキス(高投与量)

40

2.94±0.47** 39.96±1.541* 22.48±2.206* 1.752±0.085*

補中益気湯

3.08±0.33** 39.84±1.427** 22.22±2.214** 1.793±0.012*

* P<0.05, ** P<0.01 (正常群との比較)

 

おわりに

胸腺と脾臓はいずれも生体免疫に関わる主要な器官で、胸腺は細胞性免疫を担うTリンパ細胞の分化と増殖に関わり、脾臓は体液性免疫を担うBリンパ細胞の貯蔵と成熟に関わる。本試験では、カンカエキス投与群と陽性対照薬投与群は正常群と比べ、胸腺と脾臓重量に対する著明な影響は認められなかった。

T,Bリンパ細胞は生体免疫の重要な役割を担い、それぞれ細胞性免疫と液性免疫に関与する。T細胞は生体免疫システムの主役として免疫調節を担い、T細胞の機能に障害が起きると生体の細胞性免疫応答や液性免疫応答に影響する。Tリンパ細胞は自身の分泌作用を通じて増殖し、T,Bリンパ細胞及びNK細胞の成長と増殖を活性化して、生体の免疫力を更に高める。

T細胞は抗原或いはマイトジェン刺激により、分化及び増殖能力を有する免疫活性細胞に変化する。その結果、T細胞数は増加し、活性は亢進し、更にIL-2などのサイトカインを分泌する。IL-2は生体の複雑な免疫システムの中で最も重要なサイトカインであり、T細胞亜群の増殖と分化の促進、NK細胞の活性の増強、B細胞の増殖と分化の促進、サイトカインとその受容体のシグナル伝達などに関与する。インターロイキンIL-2はTh細胞で作られ、生体の免疫調節システムの中に重要な役割を担う。リンパ細胞の成熟の誘発と維持を促し、IL-2受容体シグナルを伝達させ、リンパ細胞の分化と増殖を誘発し、生体の正常免疫力を維持する。IL-2は生体免疫調節システムの基礎因子で、一般の免疫応答はIL-2により調節される[5]。本試験でもマクロファージの刺激によりTリンパ細胞を賦活化させるIL-2を産生することを発見した。

T細胞は表面標識より、CD4+T細胞とCD8+T細胞の二つの亜群に分かれている。いずれもT細胞群の重要な免疫調節細胞である。正常な生体内で一定の比例で生体の免疫機能を保っている。両方の比例の変化は、免疫機能の失調と密接な関係がある。臨床検査にはCD4/CD8比は免疫活動性の指標として利用されている。CD4/CD8比が上昇したことから正の免疫調節は優位性があることが考えられる。CD4/CD8比の低下により負の免疫調節は優位性があることが示唆される[6]。本研究の結果、カンカエキスの投与によりCD4/CD8比が増加したのは、CD4+T細胞の増加によるものと考えられる。

カンカエキスはTリンパ細胞機能を亢進させ生体の免疫機能を高めた。本試験結果はカンカの生体免疫調節作用メカニズムに関連すると考えられる。

参考文献:

  1. 马毓泉.内蒙古肉苁蓉属订正.内蒙古大学学报(自然科学版).1977,(1):69.
  2. 孙云,林安平,张洪泉等.新疆肉苁蓉抗自由基损伤的研究 中国中药杂志 1994;19(7):433~435
  3. 孙云,林安平 王德俊等,新疆肉苁蓉对小鼠衰老模型肝和大脑皮质影响的透射电镜观察 中药新药与临床药理 1997;8(3):30~32
  4. 徐叔云,卞如濂,陈修主编.药理实验方法学[M].第3版.北京:人民卫生出版社,2002; 1766;1758-1762.
  5. 孙卫民,王惠琴. 细胞因子研究方法学[M]. 北京:人民卫生出版社,1999. 393.
  6. 龚非力.医学免疫学[M].北京:科学出版社,2001:281—282,248—249.

掲載:食品と開発, VOL.42, NO.8, p76-77(2007-08)