カンカニクジュヨウを含んだ健康補助食品(KK-03)の抗疲労作用

【要旨】カンカは抗疲労作用を示し、作用機序としてグルコースの利用促進や乳酸生成抑制、およびセロトニン生成抑制などを介していることが推察された。また、カンカエキスの安全性は高いものと思われた。

養命酒製造株式会社 中央研究所
鈴木和重  酒井里美  江崎宣久  小島 暁

Anti-fatigue Effects of Health Food (KK-03) Containing Cistanche tubulosa in Rats
Kazushige Suzuki, Satomi Sakai, Nobuhisa Ezaki and Satoru Kojima
Central Research Laboratories, Yomeishu Seizo Co., Ltd., 2132–37 Nakaminowa, Minowa-machi, Kamiina-gun, Nagano 399–4601, Japan

要 旨

カンカニクジュヨウ(Cistanche tubulosa)はハマウツボ科(Orobanchaceae)の寄生植物であり,古来より中国では強壮生薬として利用されている.我々はカンカニクジュヨウ,エゾウコギ,コウジンを配合した新規の健康食品(KK-03)を作製し,抗疲労作用を検討した.KK-03(1000mg/kg)投与によりトレッドミル運動負荷後の回転かご回転数の減少が有意に抑制され,血漿中のグルコースや乳酸の上昇,脳内トリプトファンやセロトニンの上昇も有意に抑制されたことから,抗疲労作用が示唆された.また,カンカニクジュヨウ熱水抽出エキスの安全性を検討した結果,マウスを用いた単回投与試験(6.82g/kg)では行動,体重,死亡率などに影響はみられなかった.また,ラットを用いた28日間の繰り返し投与(200, 800, 3200 mg/kg)では行動や尿検査,生化学検査において軽微な影響がみられたが,カンカニクジュヨウエキスの安全性は高いものと考えられた.

 

Abstract

Cistanche tubulosa (Orobanchaceae) is parasitic plants , and has been used as a tonic in the

folk medicine in China. We prepared a novel health food (KK-03) containing Cistanche tubulosa, Acanthopanax senticosus and Panax ginseng and investigated the anti-fatigue effects of KK-03 in rats. KK-03 (1000mg/kg) suppressed the decrease of locomotor activities in a wheel cage after the treadmill running, and also reduced the elevation of plasma glucose, lactic acid and cerebral serotonin, tryptophan in biochemical analysis. On the other hand, we examined the toxicity of the hot-water extract of Cistanche tubulosa. After a single oral administration of the extract at 6.82g/kg apparent side effects in the behavior, body weight and mortality rate was not observed in male mice.In the chronic study(28 days)  the slight changes in the behavior, urinalysis, biochemistry and tissue weight was observed in male rats with any dose (200,800,3200 mg/kg) of the extract. These results suggest that KK-03 has the anti-fatigue effects and that the extract of Cistanche tubulosa is very safe.

 

緒 言

 カンカニクジュヨウ(Cistanche tubulosa (Shenk) R. Wight)は紅柳(Tamarix)類を宿主としたハマウツボ科(Orobanchaceae)の寄生植物であり,タクラマカン砂漠の過酷な環境で生育している.本植物は“砂漠人参”とも呼ばれ,中華人民共和国新彊ウイグル自治区ホータン地区では古くから強壮生薬として利用され,最近では,強壮強精作用1や免疫調節作用2,抗酸化作用3など種々の薬理作用が報告されている.また,近年では人工栽培も盛んに行われ,供給体制も整っていることから新たな健康食品素材として注目されている.

KK-03はカンカニクジュヨウ(砂漠人参),エゾウコギ(シベリア人参)およびコウジン(朝鮮人参)の“三参”を配合した新規の健康補助食品である.エゾウコギ,コウジンでは抗疲労作用4, 5が報告され,カンカニクジュヨウと同属であるニクジュヨウにも抗疲労効果6)や強壮強精効果7)が報告されていることから,KK-03にも同様の効果が期待される.

本研究ではラットに強制的な運動負荷を加えることによって疲労状態を誘発し,回転かご回転数の減少や各種疲労バイオマーカーを指標としてKK-03の抗疲労作用について検討した.また,カンカニクジュヨウエキスの安全性について併せて検討した.

 

実験の部

1.実験材料

カンカニクジュヨウ(Lot. 20050808),エゾウコギ(Lot. HJ050604C),コウジン(Lot. HJ050702T)のエタノール抽出粉末エキス(栄進商事(株)より購入)を9: 6: 2の割合(重量比)で混合してKK-03を作製した.KK-03は0.5%カルボキシルメチルセルロース(CMC)溶液に懸濁し,被検薬として実験に用いた.

また,安全性の検討では乾燥カンカニクジュヨウ(中華人民共和国新疆ウイグル自治区于田地区産,栽培品)の肉質茎の乾燥切片500gを熱水にて2時間抽出し,濃縮後凍結乾燥し,乾燥エキスを得た(収率30.3%).その乾燥エキスを蒸留水に溶解し,被検薬として実験に供した.

2. 実験動物

5週齢のWistar系雄性ラットを日本エスエルシー(株)より購入し,室温23±1℃,湿度55±5%,明暗周期12時間(明期6:00-18:00)の条件下で飼育した.市販の固形飼料(MF,オリエンタル酵母工業(株))および水は自由に与え,7日間予備飼育した後,健康な動物を実験に供した.また,安全性の検討では5週齢のddY系雄性マウスおよび5週齢のWistar系雄性ラットを日本エスエルシー(株)より購入し,同様の条件にて予備飼育した後,健康な動物を実験に供した.なお,本動物実験は「動物実験の実施に関する指針(養命酒製造株式会社中央研究所)」および「日本薬理学会動物実験ガイドライン」を遵守して実施した.

3. 実験方法

3-1. トレッドミルを用いた運動負荷

ラットに対して動物用トレッドミル(KN-73,(株)夏目製作所)を用いた運動負荷を3日間連続負荷した.運動負荷条件は角度: 7.5度,負荷時間: 60分,速度: 25-30 m/minに設定した.

3-2. 回転かご回転数におよぼす影響

ラットを回転かご付きのホームケージ((株)シナノ製作所)で2週間予備飼育した後,7日間回転かご回転数を記録し,回転数に従ってNormal群(n=14),Control群(n=8),KK-03投与群(各n=8)に分けた.Normal群,Control群には0.5%CMC溶液のみを投与し,KK-03投与群にはKK-03の投与量が100,300,1000 mg/kg/dayになるように胃ゾンデを用いて11日間連続経口投与した.投与7日目から3日間連続して被験薬投与1時間後にトレッドミルによる運動負荷を行った.10, 11日目には運動負荷は行わず,回復過程を記録した.この間,回転かご回転数(回/日)を記録した.

3-3. 疲労バイオマーカーに及ぼす影響

ラットをブランケットケージで予備飼育した後,Normal群(n=9),Control群(n=10),KK-03投与群(各n=9-11)に分けた.Normal群,Control群には0.5%CMC溶液のみを投与し,KK-03投与群にはKK-03の投与量が100,300,1000 mg/kg/dayになるように胃ゾンデを用いて9日間連続経口投与した.投与7日目から3日間連続して被験薬投与1時間後にトレッドミルによる運動負荷を行った.負荷3日目には負荷直後に断頭採血し,直ちに脳,肝臓および下肢よりヒラメ筋を摘出した.

疲労バイオマーカーとして肝臓およびヒラメ筋中のグリコーゲン量,血漿中のグルコース,遊離脂肪酸,乳酸,ピルビン酸,11-ヒドロキシコルチコステロイド(11-OHCS),脳内セロトニンおよびトリプトファン量を常法にて測定した.

4. カンカニクジュヨウエキスの安全性の検討

4-1. マウスを用いた単回大量投与試験

マウスを約16時間絶食した後,カンカニクジュヨウ熱水抽出エキス(6.82g/kg)を蒸留水に溶解し,胃ゾンデを用いて単回経口投与し,直後から14日後まで一般症状を観察した.なお,Control群には蒸留水のみを投与し,同様に観察した.

4-2. ラットを用いた繰り返し投与試験

ラットを用いて28日間の繰返し経口投与を行い(200, 800, 3200 mg/kg/day),一般症状観察,尿および血液生化学検査を行い,試験最終日には剖検し臓器重量を測定した.なお,Control群には蒸留水のみを投与し,同様に試験した.

5. 統計処理

結果は平均値±標準偏差で示し,Normal群とControl群の比較にはStudent’s t-testを用い,Control群とKK-03各投与群の比較は多重比較検定により行い,p<0.05の場合を有意な差があると判定した.

 

実験結果

1. 回転かご回転数におよぼす影響

Fig. 1にトレッドミル運動負荷を行った3日間の回転かご回転数の平均値を示した.トレッドミル運動負荷を行わないNormal群の回転数は2329±2699(回/日),トレッドミル運動負荷を行ったControl群では376±115(回/日)であり,有意な低下が認められた.それに対してKK-03投与群では回転数の低下が抑制され,特にKK-03 1000mg/kg/day投与群の回転かご回転数は1186±540(回/日)であり,Control群と比較して顕著な低下抑制が認められた.

Fig. 1 トレッドミル運動負荷を行った3日間の回転かご回転数

Fig. 1 トレッドミル運動負荷を行った3日間の回転かご回転数

 

2. 疲労バイオマーカーにおよぼす影響

トレッドミル運動負荷によってControl群ではNormal群と比較して肝臓およびヒラメ筋中のグリコーゲン量の著しい減少,血漿中のグルコース,遊離脂肪酸,乳酸,11-OHCS,脳内トリプトファンおよびセロトニン量の増加が認められた.これに対してKK-03投与群では血漿中のグルコース,乳酸および脳内トリプトファン,セロトニン量の増加が有意に抑制された(Table. 1).

3. カンカニクジュヨウエキスの安全性の検討

3-1. マウスにおける単回大量投与試験

カンカニクジュヨウ熱水抽出エキス6.82g/kgの投与4-6時間後に5例中3例で観察

ケージの金網にぶら下がっては降りる行動が繰り返し観察されたが,体幹や四肢の緊張はみられなかった.翌日,3,7および14日目の症状観察および体重においてControl群との明らかな差異はみられず,死亡例も観察されなかった.

Table. 1 トレッドミル運動後の疲労バイオマーカーへの影響

Table. 1 トレッドミル運動後の疲労バイオマーカーへの影響

 

3-2. ラットにおける繰り返し投与試験

一般症状では3200 mg/kg/day投与群でrearing回数の増加がみられたが,体重には明らかな影響は見られなかった.尿検査では800,3200 mg/kg/day投与群で尿中ビリルビン,ケトン体の増加傾向がみられた.血液生化学検査では3200 mg/kg/day投与群でトリグリセリドが変動し,アルカリ性ホスファターゼの減少傾向,グルコース,クレアチンキナーゼの増加傾向がみられた.白血球百分率では800,3200 mg/kg/day投与群で好中球の増加傾向,リンパ球の減少傾向がみられた.臓器重量ではControl群と明らかな差異はみられなかった.観察された影響も軽微であり,全体的にはカンカニクジュヨウエキスの毒性は低いものであった.

 

考 察

 多忙な現代社会では,ストレスの増大や社会生活の24時間化などによって日常的に何らかの疲労を感じている日本人は2人に1人であるといわれている.しかし,医学的に疲労に効果の認められた医薬品等は存在せず,日常的に摂取できる食品等を通じて疲労を軽減できることはセルフメディケーションの観点からも重要である.

疲労とは「身体的あるいは精神的負荷を連続して与えたときに見られる一時的な作業能力の低下」と定義され8),疲労状態においては種々の生理的指標(バイオマーカー)が変化し,疲労感として脳へ伝達するシステムが備わっていることも知られている9, 10).運動時において血中グルコースはクエン酸回路を経て効率的なエネルギー産生に利用されるが,血中グルコースの供給のためグリコーゲンが消費され,また乳酸の蓄積も生じることが知られている11).本試験の結果からトレッドミル運動負荷により回転かご回転数は減少し,肝臓および筋肉中のグリコーゲンは減少し,血漿中のグルコース,および乳酸の増加がみられた.これらは疲労状態を表しているものといえる.

KK-03はトレッドミル運動負荷による回転かご回転数の減少を抑制し,血漿中のグルコースや乳酸の増加を抑制した.疲労状態では乳酸からグルコースへ再合成されることが報告されており,KK-03投与によりクエン酸回路を経て効率的なエネルギー産生が行われたことによりグルコースや乳酸の増加が抑制されたものと推察される.

一方,血漿中で増加した遊離トリプトファンは脳内へ移行し,セロトニンに合成されることにより疲労感の生成に関連していると考えられている12, 13).KK-03の投与によって脳内トリプトファンおよびセロトニン濃度の増加が抑制されたことから,KK-03はトレッドミル運動負荷によるセロトニンの脳内変化に対しても影響を及ぼしていることが推察された.

また,カンカニクジュヨウの熱水抽出エキスの安全性を検討した結果,マウスを用いた単回投与試験(6.82g/kg)では軽度の興奮作用が認められ,ラットを用いた繰り返し投与試験では高用量で尿,血液検査に影響を与えることが確認された.しかし,いずれも軽微な変化であったことから,カンカニクジュヨウエキスの安全性は高いものと推察された.

以上,KK-03は抗疲労作用を示し,作用機序としてグルコースの利用促進や乳酸生成抑制,およびセロトニン生成抑制などを介していることが推察された.また,カンカニクジュヨウエキスの安全性は高いものと思われた.

 

REFERENCES

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