カンカニクジュヨウエキス含有食品の更年期障害改善効果

【要旨】カンカエキスを主成分とする食品を12週間摂取した場合,主とする更年期障害改善指標SMIは有意且つ顕著な改善値を示し,更年期障害を持つ女性に対してその症状緩和に有用で安全な健康食品と考えられる.

浅田 雅宣1),渡邊 雅子2),仁井本 剛2),松浦 洋一2),西田 典永1)
森下仁丹株式会社1) バイオファーマ研究所2)商品開発部

大阪市玉造1丁目1-30

Clinical Effects of the Health Food Containing
the Cistanche tubulosa Extract on Menopausal Symptoms

Masanori Asada, Masako Watanabe, Tsuyoshi Niimoto, Youichi Matsuura,
and Norihisa Nishida
Morishita Jintan Co., Ltd., 1-1-30, Tamatsukuri, Chuo-ku, Osaka, 540-8566

Abstract

A health food containing the Cistanche tubulosa extract was prepared for improvement of menopausal symptoms. The clinical effects of the health food were examined using a simplified menopausal index (SMI). The test food was administrated to ten climacteric women for 12 weeks. The daily intakes of the Cistanche tubulosa extract were 150 mg. As the result, each and total SMI scores were significantly improved. These results suggest that the health food containing the Cistanche tubulosa extract alleviate menopausal disturbances and improve the quality of life for climacteric women.

Key words: Cistanche tubulosa, simplified menopausal index (SMI), climacteric women

は じ め に

更年期障害は,女性の閉経前後におけるホルモン(エストロゲン)分泌低下が主な原因となって引き起こされる症状(不定愁訴)であり,月経異常と共に,ほてり,発汗,手足の冷え,動悸・息切れなどの血管運動神経系症状,不眠,イライラ,憂鬱,めまい・頭痛などの精神・神経系症状,疲労,肩こり・腰痛などの運動・神経系症状が問題となる.このような症状を改善するためにホルモン補充療法が有効であると報告されているが,投与方法によっては子宮体癌や乳癌の発生リスク増加等の副作用も懸念されている1).現在,天然成分を主体とする健康食品などにより更年期症状を緩和させるという代替療法が複数見られ,特に大豆から抽出精製した大豆イソフラボンは女性ホルモンであるエストロゲンにその構造が類似していることから更年期女性への効果が大いに期待されている2).一方,最近では,大豆イソフラボンの食材以外(健康食品,特定保健用食品など)からの摂取が過剰摂取にあたり,健康被害を及ぼす危険性があるということで1日の摂取上限が設けられた.

こうした背景の下,更年期を迎えた女性が,ホルモン補充療法やホルモン様物質の摂取などの自然に抗うような形でのケアではなく,より安全で効果的な天然由来成分を配合した健康食品の開発が必要となってきた.

管花(カンカ)肉蓯蓉(ニクジュヨウ)(Cistanche tubulosaの肉質茎)は,タクラマカン砂漠などに分布するハマウツボ科(Orobanchaceae)植物の一種で,紅柳の根から養分などを得て育つ寄生性の植物である.新疆ウイグル自治区の和田(ホータン)地区では,このカンカニクジュヨウをスライスしたものを羊肉と煮込んだ料理や,お酒,お茶などとして食している.一方,近縁種の肉蓯蓉(Cistanche deserticola)は「神農本草経」の上品に収載され,「五労七傷を治し,中を補い,茎中の寒熱痛を除き,五臓を養い,陰を強め,精気を益し,子を多くす」と記されており,中国では歴代の補腎・滋養強壮の処方薬の中でも特に使用頻度の高い薬として臨床で広く応用されてきた.近年,肉蓯蓉の採取が困難になってきたため,カンカニクジュヨウはその代替品として使われている3).また,本植物は,acteosideやechinacosideなどのフェニルエタノイド配糖体などの主有効成分が知られており,最近では,村岡3),吉川4)らにより新規な血管弛緩作用を有する成分も見出されている.さらに,中国内蒙古自治区では砂漠化防止のための一策として乾燥地特有の薬用植物の栽培化が試みられており,耐乾性・好塩性に優れたカンカニクジュヨウはこうした乾燥地や塩類障害土壌での栽培に適しており,砂漠地域の新たな産業としても大いに期待されている5)

そこで本研究では,「カンカニクジュヨウによる中高年者のQOL改善研究」の一環として,カンカニクジュヨウの抗疲労効果研究6) に引続き,更年期症状を呈する女性10名(平均年齢54.8歳)を対象とし,カンカニクジュヨウエキスを配合した食品「艶2(つやつや)」を12週間継続摂取させた際の有効性及び安全性をオープン試験により検討した.

I 方  法

1. 対  象

試験は,除外基準に適合しなかった者の中から,簡略更年期指数(simplified menopausal index: SMI,表1)7) において合計点数30点以上を有する閉経女性10名(平均年齢54.8±1.9歳)を対象とした.尚,本試験の開始にあたっては,㈱新薬開発研究所の主催する治験審査委員会の承認の下,被験者の同意取得および試験全般においてヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則および試験計画書を遵守して実施した.

2. 試験食品

 試験食品は,1日当たりの摂取量としてカンカニクジュヨウエキス150mg(カンカニクジュヨウ3000mgに相当),パッションフラワーエキス90mg(パッションフラワー450mgに相当),およびサフラン15mgを主成分として錠剤化した食品「艶2」(森下仁丹㈱製,以下,試験食品)を用いた.

3. 試験方法

試験は,オープン試験による前後比較デザインを用いた.試験食品は,1回3錠,朝夕食後の1日2回(計6錠/日),12週間摂取させた.試験期間を通じて毎日摂取記録を記録するとともに,摂取初日,摂取4,8及び12週目に朝食を摂らずに9時半に来院させ,医師診察,SMIアンケート(表1),血液検査および尿検査を行った.被験者は入院等の拘束は行わないが,試験期間中は規則的な生活を心がけ,過激な運動や,暴飲暴食を慎ませた.来院日には被験者に水のみ許容し,朝食および試験食品を摂取させずに来院させ検査を行うこととした.

表1 SMIアンケート

項  目

点   数

顔がほてる

10

6

3

0

汗をかきやすい

10

6

3

0

腰や手足が冷えやすい

14

9

5

0

息切れ,動悸がする

12

8

4

0

寝付きが悪い,眠りが浅い

14

9

5

0

怒りやすく,イライラする

12

8

4

0

くよくよしたり,憂鬱になる

7

5

3

0

頭痛,めまい,吐き気がよくある

7

5

3

0

疲れやすい

7

4

2

0

肩こり,腰痛,手足の痛みがある

7

5

3

0

II 結  果

1. 簡略更年期指数(SMI

図1 SMIアンケート点数の経時的変化

図1 SMIアンケート点数の経時的変化

試験期間中におけるSMIアンケートの結果を図1及び表2に示した.SMIは試験食品摂取経過とともに改善数値を示し,摂取前値との比較においていずれの被験者においても有意に改善した(図1).また,更年期障害の各症状について個別に摂取前値との比較を行ったところ,12週目までの範囲で「顔がほてる」,「汗をかきやすい」の2項目を除く8項目で有意な改善値となった.更に,アンケート時における1週間での症状発生も全項目で頻度が減少していた.

n=10,平均値±標準偏差,**:p<0.01 0wと比較して有意差あり(Wilcoxonの符号順位和検定)

表2 SMIアンケートにおける更年期症状の変化

項     目

0w

4w

8w

12w

顔がほてる 1.5±2.1 1.9±3.2 0.6±1.9 0.3±0.9
汗をかきやすい 2.4±2.4 0.9±1.4 0.6±1.3 1.2±2.1
腰や手足が冷えやすい 8.7±4.0 5.6±4.7* 4.7±4.9* 3.4±3.2*
息切れ,動悸がする 4.8±4.1 2.4±3.4* 1.6±2.1* 1.6±2.1*
寝付きが悪い,眠りが浅い 5.6±4.7 2.4±3.3* 2.9±3.3* 2.0±2.6*
怒りやすく,イライラする 3.6±2.3 1.2±1.9* 1.6±2.1* 1.2±1.9*
くよくよしたり,憂鬱になる 3.5±1.8 1.5±1.6* 0.9±1.4* 0.6±1.3*
頭痛,めまい,吐き気がよくある 3.4±2.2 2.4±2.4 1.5±1.6* 0.9±1.4*
疲れやすい 3.8±1.9 3.7±1.5 2.9±2.1 2.4±1.3*
肩こり,腰痛,手足の痛みがある 5.8±1.4 4.8±1.5* 4.2±1.4* 4.2±1.0**

43.1±7.7 26.8±4.8** 21.5±8.1** 17.8±6.6**

n=10,平均値±標準偏差,*:p<0.05,**:p<0.01 0wと比較して有意差あり(Wilcoxonの符号順位和検定)

III 考  察

 本試験ではカンカニクジュヨウエキス含有食品(商品名:「艶2」,森下仁丹㈱製)を服用することで,女性が特に閉経前後での不定愁訴として感じる更年期症状の改善効果を確認するため簡略更年期指数(SMI)を指標としたオープン試験を実施した.

その結果,SMIでは摂取4週目以降有意な改善が見られ,更年期症状の個別10項目のうち8項目も改善が見られた.残りの2項目についても有意な差は見られなかったものの,いずれも改善傾向が認められた.SMI値のグレード分けでは,合計点数26点以上で食事や運動などに気を付けることを初めとして何らかの処置が必要と位置付けされた被験者が,カンカニクジュヨウエキス含有食品の8週間摂取以降では「異常なし(25点以下)」のグレードに軽減された.更に,アンケート時の1週間における症状発生頻度でも全項目減少し,更年期障害の程度と頻度が軽減されたこととなった.

自他覚症状としては,胃腸症状が3名,舌の違和感が1名に見られたが,医師診察において異常は見られなかった.

血液および尿検査では,一部の項目で有意な変化が見られたが,いずれも基準値内での変動であり,一過性あるいは継続的増減ではないこと並びに個別値においても基準値からの大きな逸脱がないことより,試験食品摂取に起因する臨床上問題のある所見ではないと考えられた.また,女性ホルモン(FSH及びE2)についても8週目まで減少傾向ではあったものの,12週目では有意な差はなくなり,更年期症状と直接的な相関は見られなかった.

以上の結果から,カンカニクジュヨウエキスを主成分とする食品(商品名:艶2)を12週間摂取した場合,主とする更年期障害改善指標SMIは有意且つ顕著な改善値を示し,軽度な一過性の胃腸症状や舌の違和感は見られたものの,臨床検査値に大きな変動を与えなかったことより,更年期障害を持つ女性に対してその症状緩和に有用で安全な健康食品と考えられる.我々は今後も,カンカニクジュヨウに関して鋭意研究及び普及活動を進め,特に「中高齢者のQOLへの寄与」を志向していき,広く人々の健康に貢献していきたい.

引用文献

  1. 大内尉義ら, 高齢女性の健康増進のためのホルモン補充療法に関する総合的研究,厚生労働科学研究成果報告書 (2000).
  2. 久保田芳郎ら, 大豆イソフラボンアグリコンの更年期障害に対する効果について,日本人間ドック学会誌, 17, 172-177 (2002).
  3. 村岡修, カンカ(Cistanche tubulosa)とその新規血管弛緩作用成分,食品と開発, 41, 76-78 (2006).
  4. Yoshikawa M. et al., Phenylethanoid oligoglycosides and acylated oligosugars with vasorelaxant activity from Cistanche tubulosa, Bioorg. Med. Chem., 14, 7468-7475 (2006).
  5. 阿部淳ら, 中国内蒙古自治区阿拉善盟における砂漠化防止と緑化の試み, 根の研究, 14, 51-58 (2005).
  6. 仁井本剛ら, カンカニクジュヨウ配合製剤の抗疲労効果, 応用薬理, 71, 89-93 (2006).
  7. 小山嵩夫ら, 更年期婦人における漢方治療:簡略化した更年期指数による評価, 産婦人科漢方研究のあゆみ, 9, 30-34 (1992).