カンカニクジュヨウ抽出物の抗酸化能評価

 カンカ抽出物の主要成分であるエキナコシドとアクテオシドの各種ラジカル捕捉活性は、既知抗酸化剤であるL-アスコルビン酸やα-トコフェロールよりも高かった。特に脂溶性環境下においてラジカル捕捉活性を強く発揮することが示された。

大阪樟蔭女子大学大学院 人間科学研究科 人間栄養専攻
北尾 悟

【要旨】

カンカニクジュヨウ(Cistanche tubulosa)エタノール抽出物とその主要成分であるechinacoside (1)とacteoside (2)の抗酸化能評価をルミノールによる化学発光(chemiluminescence, CL)量測定を基本原理としたin vitro各種ラジカル捕捉活性測定法にて行った。対象ラジカルは、脂質過酸化のモデルとなるペルオキシルラジカル(AOO)、スーパーオキシドアニオンラジカル(O2)、そして、ヒドロキシルラジカル(HO)であり、CL抑制率にて評価した。

その結果、カンカニクジュヨウ・エタノール抽出物のペルオキシルラジカル捕捉活性は非常に強いことがわかった。

Fig. 1. Structures of major constituents of C. tubulosa.

その主要成分であるechinacoside (1)とacteoside (2)の各種ラジカル捕捉活性は、既知抗酸化剤であるL-アスコルビン酸やα-トコフェロールよりも高かった。特に脂溶性環境下においてラジカル捕捉活性を強く発揮することが示された。

【背景と目的】

カンカニクジュヨウ(Cistanche tubulosa)は、紅柳(タマリクス)の根部に寄生する植物で、漢方調剤用の医薬品ニクジュヨウと同じハマウツボ科ニクジュヨウ属に属する。カンカの主な有効成分はエキナコシド(echinacoside,1)とアクテオシド(acteoside,2)である1)。これまでに滋養強壮・抗老化・免疫機能調節・痴呆症改善・血管拡張・美容・美白・肝保護など様々な薬理作用が報告されている2-4)。また多くの疾病の一因とされている活性酸素やラジカルを消去ならびに捕捉する活性、いわゆる抗酸化作用についても若干の報告5)がなされているが詳細な検討は行われていない。

Fig. 2. Model of the scavenging mechanism of the peroxyl radicals (AOO・) and the chemiluminescence reaction.

今回、in vitroにおける抗酸化測定方法として、高感度、迅速、かつ夾雑物質の影響を受けにくいという利点を有するルミノール化学発光(chemiluminescence, CL)を共通検出原理に基づく各種ラジカル捕捉活性測定方法6)を用いて、カンカニクジュヨウのエタノール抽出物やその主要成分である(1)と(2)のラジカル捕捉活性について検討を行った。

【実験方法】

1.ペルオキシルラジカル捕捉活性測定方法

水溶性アゾ化合物である2,2’-azobis(2-amidinopropane) dihydrochloride (AAPH)を加温することにより窒素が遊離し有機ラジカル(A)が生成する。このラジカルと溶存酸素が結合しペルオキシルラジカル(AOO)が生成する。同じアゾ化合物である2,2’-azobis(2,4-dimethylvaleronitrile) (AMVN)も脂溶性環境下で同じくAOOを発生させることができる。この発生したAOOをアルカリpH条件下、チトクロムcを反応触媒に用いてルミノールCL系と連動して化学発光量の減少度により共存する試料のラジカル捕捉活性を評価した。

実際の実験手順は、25 mMリン酸緩衝液(pH 7.0)に溶解した40 mM AAPH溶液と同容量の試料(コントロールはリン酸緩衝液)を混合し、37℃2分間加温後、ホウ酸緩衝液によりアルカリpHに保たれルミノールとチトクロムcが溶解した溶液を混合し、直ちにフォトンカウンターにてCL量を測定した。この方法を以下、AAPH-CL法とする。また、AMVNを用いる場合、基本的にAAPH-CL法に準じているが、AMVNは水系の緩衝液には溶解しないため、SDS(0.5 M)を含むリン酸緩衝液(pH 7.0)に溶解し測定を行った。こちらをAMVN-CL法とする。各々、水溶性および脂溶性環境下におけるAOOに対する捕捉活性を評価した。

2.スーパーオキシドアニオンラジカル(O2)捕捉活性測定方法

O2は、ヒポキサンチンを基質に用い、キサンチンオキシダーゼの酵素反応にて発生させ、同じくルミノールCL系にて評価した。実際の測定系では、100 mMリン酸カリウム緩衝液(pH 7.5)に0.1 unit/mlになるよう調製したキサンチンオキシダーゼ溶液とAAPH-CL法と同じルミノール発光試薬、そして、試料を共存あるいは非共存下で37℃にてあらかじめ2分間保持した後、同じくリン酸カリウム緩衝液にて溶解したヒポキサンチン溶液を添加し直ちにCL量を測定した。この方法を以下、O2 -CL法とする。

3.ヒドロキシルラジカル(HO)捕捉活性測定法

HOは、金属イオン存在下、過酸化水素からフェントン反応にて生成させ、同じくルミノールCL系にて評価した。実際には、アロカ社製ラジカルキャッチTMキットを用いた。このキットの金属イオンはコバルトである。この方法を以下、HO-CL法とする。

4.抗酸化能の評価

抗酸化能の評価は、試料非存在下のコントロール時の発光量を50 %抑制する試料濃度をIC50値として求めた。このIC50値は数値が小さい程、ラジカル捕捉活性が強いことを意味する。また、AAPH-CL法ではL-アスコルビン酸、AMVN-CL法ではα-トコフェロールを標準物質に用い、IC50値を基準としたラジカル捕捉能(標準物質当量)でも示した。両方法ではトロロックスのIC50値からトロロックス当量でも算出した。

【結果および考察】

1.エキナコシド(echinacoside 1)とアクテオシド(acteoside 2)のラジカル捕捉能(Table 1) 

水溶性環境下でのAAPH-CL法において(1)と(2)のIC50値を求めた。その結果、(1)は34.61 nM、(2)は35.01 nMと強い捕捉活性値を示した。両化合物での活性の差は見られなかった。グルコース1つ分での差は無いと思われる。一般によく用いられている既知水溶性抗酸化化合物であるL-アスコルビン酸(L-AsA)も同様にIC50値を求めたところ、56.26 nMであり、(1)および(2)はL-AsA より約1.6倍活性が高いことが示された。なお茶カテキン類の主要成分である(-)-エピガロカテキンガレート((-)-epigallocatechin gallate, EGCg)のIC50値は24.00 nMであり、(1)と(2)はEGCgよりは若干捕捉活性が弱いと判断した。またAMVN-CL法で求めた結果、(1)と(2)のIC50値は各々、3.22および2.15 nMであり、AAPH-CL法より非常に強い活性値が求められた。グルコースが1つ少ない(2)のほうが親油性に富むためか活性が強い傾向を示した。一方、脂溶性抗酸化化合物として有名なα-トコフェロール(α-Toc)のIC50値は110.1 nMであり、(1)は約30倍、(2)は約50倍、α-Tocより捕捉活性が高いことが判明した。

Table 1   IC50 values of ehinacoside (1) and acteoside (2) for various radicals.

IC50 value (nM)

AOO (peroxyl)

O2

HO

AAPH

AMVN

(1)

34.61±1.99

3.22±1.94

886.7±92.9

2243±85.14

(2)

35.01±4.75

2.15±0.04

903.3±61.1

2339±41.82

L-AsA

56.26±9.25

880.0±95.4

5041±668.0

α-Toc

110.1±12.2

EGCg

24.00±4.44

482.8±38.8

The mean±S. D., n=3

O2 -CL法の結果、L-AsA とほぼ同様のO2に対する捕捉能を示した。また、HO-CL法においては、L-AsA より約2倍活性が高いことが判った。このようにカンカニクジュヨウの主成分である(1)および(2)は各種ラジカルに対して強い捕捉活性を有することが判明した。特に、脂溶性環境下においてその能力が強く示された。

2)カンカニクジュヨウ抽出物のラジカル捕捉活性(Table 2

カンカのエタノール抽出物(2ロット)のラジカル捕捉活性をAAPH-CL法を用い、Trolox当量にて評価した。その結果、2ロットのIC50値は、各々、4.54×10-6(%)と5.78×10-6(%)であり、これは主要成分(1)の含有量の差であることが示唆された。

評価に用いた抽出物は比較的簡単な手法で調製が可能であり、その抽出粉末のIC50値が10-6(%)レベル、またトコフェロール誘導体化合物トロロックスの1/10以上という高いラジカル捕捉能、抗酸化能を有することから、多くの生理作用に効果があることが予想され、今後、医薬品・化成品・食品など様々な分野での応用開発が期待される。

Table 2   Radical acavenging ability of Cistanche tubulosa extract by AAPH-CL method.

Lot. No.

content (%)

IC50 value

Trolox eq.

echinacoside

acteoside

(1×10-6, %)

1

32.7

10.5

4.54±0.15

0.171

2

24.1

10.4

5.78±0.43

0.139

The mean±S. D., n=3

【参考文献】

  1. 吉川雅之、村岡修:タクラマカン砂漠の人参“カンカ”の効能、ファルマシア43 (12), 1207-1211 (2007).
  2. 村岡修:シルクロードの長寿食 カンカの機能について、New Food Industry、48 (9), 7-11 (2006).
  3. 村岡修:カンカ(Cistanche tubulosa)とその新規血管弛緩作用成分、食品と開発41, 76-78 (2006).
  4. Yoshikawa M. et al., Phenylethanoid oligoglycosides and acylated oligosugars with vasorelaxant activity from Cistanche tubulosa., Bioorg. Med. Chem., 14, 7468-7475 (2006).
  5. Shin D. W. et al., Acta Acad. Med. Shanghai, 22 (4), 306-334 (1995).
  6. Kitao S. et al., Rapid and sensitive method for evaluation of radical-scavenging activity using peroxyl radicals derived from 2,2’-azobis(2-amidinopropane) dihydrochloride combined with luminol chemiluminescence., Food Sci. Technol. Res., 11 (3), 318-323 (2005).