【要旨】血管収縮に対して、カンカ主要成分(カンカノシド・カンカノース・エキナコシド・アクテオシドおよびシスタノシド)に有意な抑制作用が認められた。受容体依存型カルシウムチャネルを介した血管収縮を抑制する作用であることが示唆された。
1近畿大薬総研、2近畿大薬、3京都薬大、4㈱栄進商事
○村岡 修1,2、松田久司3、森川敏生1,3、謝 海輝3、中村誠宏3、李 征4、吉川雅之3
NEW IRIDOID AND PHENYLETHANOID CONSTITUENTS WITH VASORELAXANT ACTIVITY FROM CISTANCHE TUBULOSA
Osamu Muraoka,1,2 Hisashi Matsuda,3 Toshio Morikawa,1,3 Haihui Xie,3 Seikou Nakamura,3 Zheng Li4 and Masayuki Yoshikawa3
- Pharmaceutical Research and Technology Institute, Kinki University
- Faculty of Pharmacy, Kinki University
- Kyoto Pharmaceutical University
- Eishin Trading Co., Ltd.
The methanolic extract from the stems of Cistanche tubulosa was found to show an inhibitory effect on contractions induced by noradrenaline in isolated rat aortic strips. From the extract, five iridoids, kankanosides A—D (1—4) and kankanol (5), a monoterpene, kankanoside E (6), two phenylethanoids, kankanosides F (7) and G (8), and an acylated oligosugar, kankanose (9), were isolated together with 30 known compounds. Among the principal constituents, 7, 9, echinacoside (10), acteoside (11), and cistanoside F (12) showed vasorelaxant activity, and several structural requirements for the activity were clarified.
Keywords: Cistanche tubulosa, vasorelaxant activity, kankanoside, kankanol, kankanose
ハマウツボ科植物カンカニクジュヨウ(Cistanche tubulosa)は、ベニヤナギの根部に寄生する植物で、おもに中国新彊ウイグル自治区やパキスタンなどの砂漠地帯に自生している。カンカニクジュヨウの同属植物として、「神農本草経」の上品に収載され、補腎・滋養強壮の漢方方剤に多く処方されているニクジュヨウ(C. salsa)があり、その肉質茎はインポテンツや不妊症の治療および虚弱体質の改善などに用いられている。近年、ニクジュヨウの採取が困難になったため、その代用品としてカンカニクジュヨウが注目されている。
また、主産地のひとつである新彊ウイグル自治区のタクラマカン砂漠周辺では、カンカニクジュヨウを羊肉とともに煮込み料理に供したり、酒に漬けて飲用するなど、食用としても用いられている。今回、カンカニクジュヨウ肉質茎部の含有成分の探索研究に着手し、メタノール抽出エキスから5種の新規イリドイドkankanoside A-D (1–4)およびkankanol (5)、1種のモノテルペン配糖体kankanoside E (6)、2種のフェニルエタノイド配糖体kankanoside F (7)、G (8)および1種のアシル化オリゴ糖kankanose (9)を単離・構造決定するとともに、30種の既知化合物を単離・同定した。1,2)
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得られた主要成分について、ラット胸部大動脈を用いたマグヌス法による血管収縮抑制作用を検討したところ、dl-noradrenaline添加(1 μM)による血管収縮に対して、7, 9, echinacoside (10), acteoside (11)およびcistanoside F (12)に10—100 μMの濃度において有意な抑制作用が認められた(Table 1)。2)
活性の認められた化合物のうち、9—12はいずれも4’位にcaffeoyl基を有しており、一方6’位にcaffeoyl基が結合したisoacteoside (13)は、11と比べて活性が減弱していることからcaffeoyl基の結合位置が活性強度に影響を与えていることが示唆された。また、アグリコン部に3,4-dihydrophenyl基を有する7は100 μMの濃度において有意な血管収縮抑制作用が認められているが、4-hydroxyphenyl基を有するsalidroside (14)には活性が認められなかったことから、3,4-dihydrophenyl基が活性の発現に必須であることが示された。また、これら活性の認められた化合物はいずれも高濃度KCl(high K+)により誘発される血管収縮については抑制作用を示さなかったことから、その作用メカニズムはnifedipineの様な電位依存性のカルシウムチャンネル拮抗薬とは異なり、受容体依存型カルシウムチャネルを介した血管収縮を抑制する作用であることが示唆された。しかし、Fig. 1に化合物10の血管収縮曲線を示すように、いずれの活性成分においてもnoradrenaline添加後およそ30分あたりから血管収縮抑制 作用が認められたことから、prazosinの様なα1-受容体遮断薬と異なる挙動が観察されるなど、その作用メカニズムにも興味が持たれる。
参考文献
- Xie, H., Morikawa, T., Matsuda, H., Nakamura, S., Muraoka, O., Yoshikawa, M., Chem. Pharm. Bull., 54, 669—675 (2006); 2) Yoshikawa, M., Matsuda, H., Morikawa, T., Xie, H., Nakamura, S., Muraoka, O., Bioorg. Med. Chem., 14 (2006), in press.
掲載:食品と開発, VOL.41, NO.12, p76-78(2006-12)