カンカ配合食品はNFPの体内動態に顕著な変化は及ぼさず, また胃内容物排出機能にも影響しないことが明らかになった.CYP3A基質医薬品の体内動態に対し, 深刻な影響を及ぼす可能性は低いことが示唆され, 安全性の高い機能性食品であることが示された.
1森下仁丹株式会社 研究開発本部, 2同志社女子大学薬学部 生物薬剤学研究室, 3姫路獨協大学薬学部 臨床薬効評価学研究室
○ 長友 暁史1, 西田 典永1, 仁井本 剛1, 小崎 敏雄1, 浅田 雅宣1, 大西 憲明3, 芝田 信人2
1.はじめに
健康志向の高まりを背景に, 食品が有する生体機能調節作用が注目され, 様々な健康食品やサプリメントが開発されている.健常者が健康維持目的に利用するだけでなく, 何らかの疾患をもつ患者や高齢者が摂取することもあり, 医薬品との飲み合わせに関する問い合わせは年々増加傾向にある.食品と医薬品の相互作用により有害事象を引き起こす代表的な例として, グレープフルーツジュース (GFJ) による薬物代謝酵素チトクロムP450 (CYP) の阻害作用が挙げられる.GFJに含まれるフラノクマリン類がCYPを阻害し, CYPにより代謝される医薬品の体内動態が変化することで副作用の発現を誘発する.このようにメカニズムが詳細に解明されている例は少なく, 日々開発される機能性食品については毒性試験などの安全性情報は取得されているものの医薬品との相互作用に関する知見は依然不足している.そのため利用者からの問い合わせに対して十分答えきれていないのが現状である.食の安全が叫ばれる昨今, 健康食品・サプリメントの安全かつ適正な使用を実現する上で, 相互作用情報の蓄積は必要不可欠であり, メーカーは自社の製品に関して, 相互作用という面からも安全性を確保していくことは今や社会的義務であると考えられる.
医薬品間の相互作用の機序としては, 薬物の吸収・分布・代謝・排泄過程を介し血中薬物濃度が変化する薬物動態学的相互作用が最も多い.中でも代謝過程における相互作用は重要であり, そのほとんどが薬物代謝酵素シトクロムP450 (以下CYP) の阻害または誘導によるものと考えられている.数多くの分子種を持つCYPのうち, 特にCYP3A4は小腸および肝臓に多く存在し, また, 臨床で使用されている薬物の約50%の代謝に関わっているため, 注意を要する分子種である.
今回, 我々はCYP3Aで代謝される代表的な医薬品であるニフェジピン (以下NFP) を用い, ラット肝ミクロソームに存在するCYP3A活性に及ぼすカンカニクジュヨウ配合食品の影響およびNFPの体内動態に及ぼす影響について検討した.
2.実験方法
試験食品
試験食品は, 森下仁丹㈱製カンカニクジュヨウ配合食品 (K-Prep.;ヒト1日摂取量:カンカニクジュヨウエキス:300 mg, コウジンエキス:305 mg, マカエキス:200 mg) を用いた.投与量は, ヒトの体重を60 kgと仮定してkgあたりの用量に換算したものを常用量とし, その10倍用量の計2用量とした.
In vitro
ラット肝臓中CYP3A活性は, NFP酸化反応をモニタリングすることで評価した.すなわち, NADPH生成系存在下において, ラット肝ミクロソームとNFP (10 µM) を37℃で一定時間インキュベートし, HPLCで代謝物 (酸化NFP;NFPO) を定量した.コントロール群のNFPO生成量を100%とし, 各被験物質の添加による生成量の変化を相対値で比較した.
In vivo
Wistar/ST系雄性ラット (9-12週齢) にK-Prep.を単回または1日1回, 4日間経口投与した後, NFP (1 mg/kg) を経口または静脈内投与し, 頸静脈に施したカニューレより4時間後まで経時的に非拘束・無麻酔下採血した.血漿中NFP濃度はLC-MS/MSにより測定した.得られたデータをモーメント解析法により解析し, 各種薬物動態学的パラメータを得た.CYP3A阻害薬としてケトコナゾール (10 mg/kg, p.o.) を用いた.胃内容物排出機能はアセトアミノフェン法で測定した.すなわち, ラットに被験物質を経口投与した後, エレンタール®水溶液に懸濁したアセトアミノフェン (30 mg/kg) を経口投与し, 頸静脈より60分後まで経時的に採血した.血中アセトアミノフェン濃度はHPLCにより測定した.
3.結果および考察
カンカニクジュヨウ配合食品およびその構成生薬がラット肝CYP3Aに及ぼす影響
K-Prep.は, 用量依存的にNFPOの生成を抑制した.また, その構成生薬のうち, カンカニクジュヨウエキスおよびコウジンエキスに阻害活性が認められた.このことから, K-Prep.はCYP3Aの阻害活性を有し, それはカンカニクジュヨウエキスおよびコウジンエキスに起因することが示唆された.
カンカニクジュヨウ配合食品の単回投与がニフェジピンの体内動態に及ぼす影響
K-Prep.を経口投与し, その30分後にNFPを投与したところ, NFPのCmaxの低下傾向およびTmaxの延長傾向が認められた.しかし, AUCには変化は認められなかった (Fig. A, Table).この結果からNFPの吸収が遅延していることが疑われたため, 胃内容物排出機能を調べたところ, 顕著な変化は観察されなかった.また, NFPを静脈内投与してK-Prep. が肝臓のニフェジピン代謝能に及ぼす影響を検討したが, 何ら変化は認められなかった.
カンカニクジュヨウ配合食品の4日間連続投与がニフェジピンの体内動態に及ぼす影響
ラットにK-Prep.を4日間連続投与し, NFPの体内動態に及ぼす影響を検討したところ, 用量依存的なCmaxおよびAUCの増加傾向, t1/2およびMRTの延長傾向が観察された.しかし, いずれも有意な変化ではなかった (Fig. B, Table).NFPを静注した時の体内動態にも有意な変化は認められなかった.
Each point represents the mean±S.E.M. of 5-6 rats. Significantly different from the control group, *P<0.05, **P<0.01.
Table. Pharmacokinetic Parameters of NFP after Oral Administration of NFP with K-Prep. to Rats
Parameter | Control | K-Prep. | Ketoconazole | |
13.4 mg/kg | 134 mg/kg | 10 mg/kg | ||
(Single Administration) | ||||
Cmax (µg/mL) | 1.20±0.21 | 0.75±0.10 | 0.79±0.11 | 1.53±0.13 |
Tmax (h) | 0.25±0.06 | 0.54±0.10 | 0.58±0.14 | 1.25±0.17** |
t1/2 (h) | 1.09±0.56 | 1.28±0.24 | 1.23±0.26 | 1.63±0.17 |
AUC0—∞ (µg・h/mL) | 1.73±0.35 | 1.73±0.16 | 1.57±0.20 | 4.98±0.44** |
MRT (h) | 1.69±0.78 | 2.05±0.33 | 1.93±0.31 | 2.77±0.25 |
l (/h) | 1.26±0.29 | 0.70±0.19 | 0.94±0.41 | 0.45±0.05 |
(Continuous Administration) | ||||
Cmax (µg/mL) | 0.75±0.06 | 0.85±0.12 | 0.68±0.12 | 2.41±0.26** |
Tmax (h) | 0.40±0.07 | 0.44±0.13 | 0.48±0.12 | 0.67±0.15 |
t1/2 (h) | 1.18±0.41 | 1.12±0.21 | 2.35±0.73 | 1.10±0.22 |
AUC0—∞(µg・h/mL) | 1.60±0.16 | 1.61±0.15 | 2.35±0.51 | 5.38±0.50** |
MRT (h) | 1.85±0.48 | 1.73±0.27 | 3.61±0.96 | 1.90±0.31 |
l (/h) | 0.83±0.17 | 0.75±0.15 | 0.53±0.16 | 0.79±0.17 |
Each value represents the mean±S.E.M. of 5-6 rats. Significantly different from the control group, **P<0.01. |
以上のことから, K-Prep.はin vitroにおいてはCYP3A阻害活性を示すものの, in vivoでは単回・連続投与時でもNFPの体内動態に顕著な変化は及ぼさず, また胃内容物排出機能にも影響しないことが明らかになった.K-Prep.はニフェジピンに代表されるCYP3A基質医薬品の体内動態に対し, 深刻な影響を及ぼす可能性は低いことが示唆され, K-Prep.は安全性の高い機能性食品であることが示された.
我々は今後も, 食品–医薬品相互作用についての知見を取得し, 情報を蓄積して広く発信していくことで, より安全な健康食品をアピールし, 人々の健康増進に貢献していきたいと考えている.