鎖陽成分とその誘導体のエイズウイルスプロテアーゼ阻害活性について

富山大学・和漢医薬学総合研究所 服部征雄、馬 超美

鎖陽(Cynomorium songaricum)は腎を補い、腰膝を強くし、腸を滑らかにする薬物で、その効能は肉蓯蓉と同じと記されている(難波恒雄著、和漢薬百科図鑑)。我々はHIV-1プロテアーゼ阻害作用を指標に内蒙古で購入した薬物を検索していた時、この鎖陽のメタノールエキスが特に顕著な阻害作用を示すことを見いだした。常法に従い、分画し成分を同定し、最終的にはmalonyl ursolic acid hemiesterが比較的強い阻害作用を持つことがわかった。そこでウルソール酸の種々のジカルボン酸ヘミエステルを合成し、阻害活性を比較した結果、glutaryl hemiesterが最も強い活性を示した(IC50 4 x 10-6 M)。また、オレアノール酸、ベツリン酸などのジカルボン酸ヘミエステル誘導体を合成してHIV-1プロテアーゼ阻害を調べ、同様のヘミエステルの鎖長と阻害活性の関係があることが判明した。また、17位のカルボン酸をメチルエステルにすると活性が激減することから、3位と17位のカルボン酸の存在が阻害活性を増強することがわかった。さらにオレアノール酸の3位および17位の化学修飾を行い阻害活性を検討した。

これら化合物の阻害機構を検討した結果、既知アスパラギン酸プロテアーゼ阻害物質のペプスタチンとは全く異る阻害様式であることがわかった、すなわち、これらトリテルペン誘導体はHIV-1プロテアーゼの活性型二量体形成を阻害することによって、阻害作用が発現することがわかった。ちなみに、これらトリテルペン誘導体による阻害は二量体を形成しないアスパラギン酸プロテアーゼのペプシンに対して認められないことがわかった。

参考文献

1. Ma C.M., Nakamura M., Hattori M.: Natural products and their derivatives, having anti-HIV protease activity. Current Topics in Medicinal Chemistry, 3, 77-99 (2003).