カンカニクジュヨウ由来アクテオシドのラットの性機能増強に関する研究

【要旨】カンカ有効成分アクテオシドは陰茎勃起潜伏期間を短縮させ、副生殖器官の重量と指数を増加させた。アクテオシドの雄性ホルモン様作用が認められ、カンカが性機能低下症や同障害に対して一定の治療・改善効果が期待できると考えられる。

王徳俊1 陳飛1 張洪泉1 楊軍波2 盛慶2 黄利興2 賀剛2
(1.揚州大学医薬研究所  2.和田帝辰沙生薬物開発有限公司)

カンカニクジュヨウ(Cistanche tubulosa (Schenk) R. Wight)は俗称“砂漠人参”と呼ばれ、ニクジュヨウ属植物の乾燥鱗片の肉質茎である。補肝腎や精気補給、補腎強壮および抗老化等の効能が知られ、滋養強壮効果に優れた生薬として臨床的に常用されている。カンカニクジュヨウの抽出物には、免疫増強作用の他に抗フリーラジカル損傷作用や雄性ホルモン様作用 [123]が認められている。カンカニクジュヨウの主要有効成分はフェニルエタノイド化合物のアクテオシドである。研究報告によると、アクテオシドには抗酸化作用、抗腫瘍作用および強心作用[4]等が認められている。

今回、アクテオシドの生殖系に対する作用について更なる検討を加え、雄性ラットの生殖器官および性機能等に対するアクテオシドの雄性ホルモン様作用について検討した。

 

 1.実験材料

被検物質:
アクテオシド(和田帝辰沙生薬物開発有限会社より提供)

被検動物:
SD系雄性ラット60匹(体重180±20g,揚州大学比較医学センターより提供,合格証番号:SCXK2002-0018)

薬品:
プロピオン酸テストステロン(上海通用薬業股分有限会社,ロット番号:050501)

アクテオシド投与群:
高投与量群は80mg/kg(ヒトへの推薦摂取量の5倍量に相当)、中投与量群は40mg/kg、低投与量群は20mg/kgのアクテオシドを3週間連日経口投与した。

2.実験方法

去勢ラットの陰茎勃起活動に対するアクテオシドの影響

雄性ラット60匹を体重に基づき均等に6群(n=10)に分け、無作為に1群を選び無処置対照群とした。その他の5群は、常法に従いエチルエーテル麻酔下で双方の睾丸を摘出して去勢ラットを作成した。その後、ペニシリンを筋肉注射して感染を防ぎ、術後3日目に実験に供した。
第一群:無処置対照群(去勢手術を施さない)
第二群:対照群(生理食塩水を投与)
第三、四、五群にはアクテオシドを、それぞれ20、40、80mg/kgの用量で毎日1回、3週間連日経口投与した。
第六群:プロピオン酸テストステロン注射液(2mg/kg)を3週間連日皮下注射して陽性対照群とした。
投薬後3週目に電気刺激法[56]によりラット陰茎勃起潜伏期間を測定した。即ち、既報に準じて投薬後一定時間経過後にY5D-4G薬理生理多用計測器を用いて周波数8Hz、電圧10Vの電流を0.5秒間マウスの陰茎頭部および陰茎皮膚箇所に電気刺激を与えた。刺激開始から陰茎の完全勃起までの時間を測定して陰茎勃起潜伏期間とし、また、完全勃起後、勃起終了までの時間を測定して持続期間として、アクテオシドのラット陰茎勃起潜伏期間と持続期間の影響について検討した。

 アクテオシドの雄性ラット生殖器官に対する影響

アクテオシドを3週間連日投与後、ラットを脱椎致死させて、睾丸、包皮腺、精嚢腺、副睾丸、前立腺、肛門挙筋、球海綿体筋を分離摘出後、ただちにその湿重量(mg)を測定して、各群のラットの睾丸、肛門挙筋、球海綿体筋、包皮腺、精液嚢、前立腺等の重量及び各々の臓器の重量係数を算出した。更に、各群のラットの組織切片を作成してHE染色後に光学顕微鏡で精子生成と睾丸間質細胞の形態変化について観察した。更に、同時に撮影記録を行い、アクテオシドのラット精細管の管腔中の精子密度および間質細胞数に及ぼす影響を検討した。

 統計処理

各群の測定値のmean±S.D.を求め、SPSS10 .0 統計ソフトを用いて統計処理を行い、各群間の差異をt検定により比較した。

3.実験結果

去勢ラットの陰茎勃起活動に対する影響

アクテオシドは去勢ラットの陰茎勃起潜伏期間を短縮させ、持続期間を延長させた。対照群と比較して顕著な差異(p<0.01)が認められた。(表1参照)

表1.アクテオシドの去勢ラット陰茎勃起活動に対する影響

グループ別 投与量 (mg/kg) 勃起潜伏期(s) 勃起持続期(s)
無処置対照群 0 22.63±5.35## 34.73±3.24##
去勢対照群 0 56.7±16.00 10.26±2.72**
アクテオシド低投与量群 20 35.4±10.47##* 20.21±3.11##**
アクテオシド中投与量群 40 31.3±9.13## 25.03±2.62##**
アクテオシド高投与量群 80 25.5±5.72## 28.95±4.16##
プロピオン酸テストステロン 2 24.6±6.44## 31.32±3.45##

去勢対照群との比較:# #p<0.01;陽性無処置対照群との比較: ** p<0.01


アクテオシドの雄性ラット副生殖器官に対する影響

包皮腺、精液嚢、前立腺の湿重量(mg)および臓器係数に対する影響は対照群と比較して顕著な差異が認められた。(p<0.01,表2参照)

表2.アクテオシドの去勢ラットの前立腺、精嚢腺、包皮腺係数に対する影響

グループ別 投与量(mg/kg ) 前立腺係数(mg/g) 精嚢腺係数(mg/g) 包皮腺係数(mg/g)
無処置対照群 0 0.302±0.032##* 1.087±0.165##* 0.527±0.143##
去勢対照群 0 0.176±0.015** 0.675±0.169** 0.270±0.992**
アクテオシド低投与量群 20 0.190±0.021##** 0.681±0.108** 0.288±0.083**
アクテオシド中投与量群 40 0.243±0.024##** 0.737±0.094** 0.324±0.064**
アクテオシド高投与量群 80 0.301±0.018## 0.843±0.175##** 0.395±0.101##**
プロピオン酸テストステロン 2 0.332±0.086## 1.125±0.437## 0.543±0.102##

去勢対照群との比較:## p<0.01;プロピオン酸テストステロングループとの比較: ** p<0.01

 

アクテオシドの雄性ラット生殖器官に対する影響

アクテオシド各群のラットの睾丸、肛門挙筋および球海綿体筋は対照群と比較して顕著な差異が認められた。(表3参照)

 表3.アクテオシドのラット生殖器官重量に対する影響

グループ別 投与量(mg/kg ) 睾丸係数(mg/100g) 肛門挙筋係数(mg/100g) 球海綿体筋係数(mg/100g)
無処置対照群 0 0.685±0.085##* 50.31±6.53*** 0.876±0.041##**
去勢対照群 0 0.554±0.092** 23.12±3.47 0.192±0.028
アクテオシド低投与量群 20 0.798±0.087#** 28.11±5.69***# 0.350±0.098**
アクテオシド中投与量群 40 0.873±0.104##** 34.86±4.84 0.498±0.065#**
アクテオシド高投与量群 80 1.016±0.453##** 37.10±4.12 0.687±0.104##**
プロピオン酸テストステロン 2 0.1491±0.453## 42.95±6.38### 0.916±0.453##

去勢対照群との比較:## p<0.01;プロピオン酸テストステロングループとの比較: ** p<0.01

 

組織学観察

光学顕微鏡下では、睾丸除去後のラットの精嚢および前立腺に明らかな萎縮が認められ、管腔が細くなり、管壁が薄くなった。しかしアクテオシド投与群では明らかな改善が認められた。

1.去勢対照群

1.去勢対照群

2.アクテオシド中投与量群

2.アクテオシド中投与量群

3.無処置対照群

3.無処置対照群

4.プロピオン酸テストステロン投与群

4.プロピオン酸テストステロン

5.アクテオシド高投与量群

5.アクテオシド高投与量群

6.アクテオシド低投与量群

6.アクテオシド低投与量群

測定結果

  1. アクテオシドは明らかに去勢ラットの陰茎勃起潜伏期間を短縮させ、持続期間を延長させ、対照群と比較しても顕著な差異が認められた。
  2. 去勢ラットの生殖器官の重量を増し、精嚢腺と包皮腺、前立腺指数を増加させた。
  3. 去勢ラットの精子生成を明らかに増強させた。

以上より、アクテオシドには去勢ラットに対する雄性ホルモン様作用が認められた。

考察:従来の研究により、性腺萎縮、生殖器官重量軽減、曲細精管衰退および睾丸の間質繊維化は、男性高齢者の生理的老衰や部分的性機能障害者における特徴的な病理変化である[78]と考えられている。

本研究結果で、アクテオシドの実験ラットの陰茎勃起機能増強と持続時間延長が認められたことにより、アクテオシドには補腎強壮作用があり、雄性生殖系機能を増進させることが明らかになった。

また、去勢ラットにアクテオシドを投与した後、包皮腺、精嚢腺、前立腺、肛門挙筋等の生殖器官の臓器重量係数が明らかに増加したことにより、アクテオシドの去勢による性機能障害に対する改善作用が認められた。

本研究により、カンカニクジュヨウの有効成分アクテオシドは去勢ラットの陰茎勃起潜伏期間を短縮させ、その包皮腺、前立腺、精嚢腺等の副生殖器官の重量と指数を増加させた。このことによりアクテオシドの雄性ホルモン様作用が認められて、カンカニクジュヨウが性機能低下症や同障害に対して一定の治療・改善効果が期待できると考えられる。

参考文献

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掲載:Food style 21, VOL.11, No.4, p57-59(2007-04)