カンカニクジュヨウの 研究と応用

 カンカニクジュヨウは中でも最も野生の資源が豊富で、栽培も容易であり、有効成分の含有量が最も多いため、我々は重点的にカンカニクジュヨウの系統研究と開発を進めている。

屠鵬飛
北京大学薬学院

概論

  • ニクジュヨウはニクジュヨウ属(Cistanche)植物の乾燥鱗片の肉質茎にあたる。補腎強壮、補精血、潤腸、通便の効果があり、男性のインポテンツ、女性の不妊症、血崩、帯下、腰膝の冷えと痛み、血枯便秘等の症状に用いられ、使用頻度が最も多い補腎強壮薬である。
  • わが国にはニクジュヨウ属植物が4種類と変種が1種類あり、荒漠ニクジュヨウCistanche deserticola Y. C. Ma、塩生ニクジュヨウC. salsa (C. A. Mey.) G. Beck、白花塩ジュヨウC. salsa var. albiflora P. F. Tu et Z. C. Lou、カンカニクジュヨウC. tubulosa (Schenk) R. Wightおよび沙ジュヨウC. sinensis G. Beckに分けられる。「中国薬典」2005年版に収載されたニクジュヨウは荒漠ニクジュヨウとカンカニクジュヨウである。
  • カンカニクジュヨウは中でも最も野生の資源が豊富で、栽培も容易であり、有効成分の含有量が最も多いため、我々は重点的にカンカニクジュヨウの系統研究と開発を進めている。

一 カンカニクジュヨウの化学成分研究

カンカニクジュヨウCistanche tubulosa (Schenk) R. Wightは新疆の天山山脈の南方にあり、野生の資源が最も豊富な植物である。我々はその化学成分に対して系統研究を行い、95%のアルコール抽出物から分離し、32個の化合物を鑑定した。その中に新規化合物は7個あった。

  • フェニルエチルアルコール 18個
  • イリドイド  4個
  • リグニン  1個
  • オリゴ糖エステル 4個
  • その他成分 5個
Cistantubuloside A

Cistantubuloside A
シスタンツブロシドA

Cistantubuloside B1(tran), B2(cis)

Cistantubuloside B1(tran), B2(cis)
シスタンツブロシドB1(トランス)、B2(シス)

Cistantubuloside C1(S type), C2(R type)

Cistantubuloside C1(S type), C2(R type)
シスタンツブロシドC1(Sタイプ)、C2(Rタイプ)

Cistantubulose A1(β type),A2(α type)

Cistantubulose A1(β type),A2(α type)
シスタンツブロシドA1(βタイプ)、A2(αタイプ)

2’-acetylacteoside

2’-acetylacteoside
2′-アセチルアクテオシド

acteoside

acteoside
アクテオシド

campneoside I

campneoside I
カンプネオシド I

campneoside II

campneoside II
カンプネオシド II

crenatoside

crenatoside
クレナトシド

decaffeoylacteoside

decaffeoylacteoside
デカフェオイルアクテオシド

echinacoside

echinacoside
エキナコシド

isoacteoside

isoacteoside
イソアクテオシド

rhodioloside

rhodioloside
ロジオロシド

syringalide A 3’-α-L-rhamnopyranoside

syringalide A 3’-α-L-rhamnopyranoside
シリンガリドA3′‐α‐L‐ラムノピラノシド

tubuloside A

tubuloside A
ツブロシドA

cistanoside F

cistanoside F
シスタノシドF

(+)-syringaresinol-O-β-D-glucopyranoside

(+)-syringaresinol-O-β-D-glucopyranoside
(+)-シリンガレシノール-O-β-D-グルコピラノシド

adoxosidic acid

adoxosidic acid
アドキソシド酸

8-epiloganic acid

8-epiloganic acid
8-エピロガニン酸

geniposidic acid

geniposidic acid
ゲニポシド酸

galactitol

galactitol
ガラクチトール

二 カンカニクジュヨウの薬理作用研究

1 カンカニクジュヨウ配糖体による抗老人性痴呆症薬効学研究

カンカニクジュヨウ配糖体はカンカニクジュヨウから抽出した純化したフェニルエチルアルコール配糖体である。フェニルエチルアルコール配糖体の含有量は90%以上であり、エキナコシド(echinacoside)は40%以上、アクテオシド(acteoside)は10%以上である。

(1)ジュヨウ配糖体の正常なマウスの学習記憶に対する影響

水迷路反応時間の比較値の日別変化

27日間投与したジュヨウ配糖体50、200mg/kg組の水迷路反応時間の比較値の日別変化(対照組は100とする)

水迷路反応時間の比較値の日別変化

27日間投与したジュヨウ配糖体400mg/kg組と脳復康400mg/kg組の水迷路反応時間の比較値の日別変化(対照組は100とする)

(2)ジュヨウ配糖体のエタノール誘導されたマウスの記憶再現喪失に対する保護作用

組別 投与量mg/kg 動物数 訓練後到達目標 エタノール投与後到達目標
時間(秒) 錯誤回数/
時間(秒) 錯誤
回数/
錯誤率
回/匹
組全体錯誤率
回/匹
ジュヨウ
配糖体
50 12 7.46±
0.13
0/0 34.40±
21.71*
47/8 5.88 3.92
200 11 7.14±
0.18
0/0 16.99±
9.06##
8/3△△ 2.67 0.73
400 10 7.91±
0.19
0/0 24.38±
27.84
46/7 6.57 4.60
脳復康 400 10 8.00±
0.46
0/0 24.08±
32.52
54/6 9.00 5.40
対照 12 7.73±
0.75
0/0 37.78±
15.90
62/10 6.20 5.17

t検定:対照組との比較##P<0.01、200mg/kg組との比較✽P<0.05
x2検定:対照組との比較△△P<0.01

(3)ジュヨウ配糖体のマウスのスコポラミン起因記憶獲得性障害に対する改善作用

組別 投与量(mg/kg) 動物数(匹) 測定潜伏期(S) 測定錯誤回数(回/5min)
正常対照 14(1) 194.1±101.5* 1.36±1.45*
模型組 15 67.1±78.4 3.13±2.47
ピラセタム 600 15 144.5±117.4* 1.60±1.40*
ジュヨウ配糖体 400 12(3) 206.1±98.8** 1.08±1.16**
200 12(3) 183.2±115.2** 1.42±1.38*
100 14(1) 191.8±117.5** 1.50±2.07

模型組との比較、✽P<0.05、✽✽P<0.01;カッコ中の数字は電撃死亡数

(4)ジュヨウ配糖体のマウスの亜硝酸ナトリウム起因記憶強固障害に対する影響

組別 投与量(mg/kg) 動物数(匹) 測定潜伏期(S) 測定錯誤回数(回/5min)
正常対照 14⑴ 222.6±102.9** 0.64±0.84*
模型組 18 88.2±106.2 1.50±1.10
ピラセタム 600 17⑴ 200.7±110.7** 0.65±0.70**
ジュヨウ配糖体 400 14⑴ 176.6±124.3* 0.86±0.86
200 15 216.6±101.1** 1.13±1.18
100 15 154.3±124.9 1.20±1.08

模型組との比較、✽P<0.05、✽✽P<0.01;カッコ中の数字は
実験時の電撃死亡数

(5)ジュヨウ配糖体のヒドロコルチゾン起因腎陽虚マウスの学習記憶機能に対する影響

組別 投与量(mg/kg) 動物数(匹) 死亡数(匹) b 死亡率(%) 測定潜伏期(S) 測定錯誤回数(回/5min ­)
正常対照組 18 0 0 217.1±83.4** 0.67±0.49**
模型組 11 8 42 100.5±88.7 1.82±0.98
金匱腎気丸 1500 15(1) 1 6△ 191.7±109.8* 0.93±0.96*
ジュヨウ配糖体 400 18 1 5△ 193.2±121.7* 0.83±1.04*
200 19(1) 0 0△ 211.5±108.7** 0.79±0.85**
100 19 0 0△ 202.0±117.6* 1.16±1.46

t検定:模型組との比較 *P<0.05 **P<0.01

2.毒理学研究

急性毒性試験
マウスとラットを使用して急性毒性試験を行ったところ、死亡や中毒症状は見られず、本品が急性で大量の薬剤量を投与しても安全性が非常に高いことが証明された。

長期毒性試験
ラットとビーグル犬を使用して6ヶ月の長期毒性試験を行った。結果、本品には副作用の症状がなく、各種臓器の組織切片と生化学指標検査の各項目が正常であることが証明され、本品が長期的に使用しても安全性が非常に高いことが明らかになった。

結論:カンカニクジュヨウのフェニルエチルアルコール配糖体は安全性が非常に高い。

三、カンカニクジュヨウ配糖体の臨床治療効果評価

Ⅰ期臨床試験

1、単回投与量忍耐性試験

総病例数:30例

試験組 1 2 3 4 5 6 7
投与量(mg) 150 300 600 900 1500 1800 2400
投与量逓増倍数 1 2 4 6 10 12 16
病例数 2 4 6 6 4 4 4

試験結果:
被験者の体温、呼吸頻度、心拍数、最大血圧、最小血圧、肝腎機能、空腹時血糖、血液検査、尿検査、便検査および心電図の各観察指標に異常な変化は表れなかった。試験の課程において、各組の被験者に副作用反応は表れず、正常な人体に1回投与した忍耐性は良好であることが証明された。

2、複数回投与量忍耐性試験

総病例数:12例
用法用量:経口服用毎日3回、10日間

試験組 1 2
投与量 (mg) 600 900
病例数 6 6

試験結果:
被験者の体温、呼吸頻度、心拍数、最大血圧、最小血圧、肝腎機能、空腹時血糖、血液・尿・便検査および心電図に特に影響はなかった。;試験の課程において、各組の被験者に副作用反応は表れなかった。

Ⅱ期臨床試験

試験形式:本試験では適時にダブルブラインド比較や、陽性薬並行対照を、複数の研究所で行った。被験人数:231例

入選人数 処方案要求達成者 削除/脱落 服薬後治療未終了者
試験組(MemoregainⓉ) 120 115 5 116(1)
対照組(Hydergine) 120 112 8 115(8)
合計 240 227 13 231(9)

治験結果:

治療過程:3ヶ月 STA-1:2’s tid
対照薬((Hydergine): 2’s tid
総有效率 知能状態(MMSE) 社会行動能力(BBS) 日常生活機能(ADL) 中医証候
試験組(MemoregainⓉ) 75.65% 66.09% 50.43% 84.35%
対照組(Hydergine) 72.32% 54.46% 40.18% 70.54%

✽STA-1では薬物による副作用および厳重な不良事件はなかった  統計分析:P<0.05
STA-1による各病状レベルに対する治療効果分析

治癒/重度から軽度への好転 重度から中度/中度から軽度への好転 変化なし 悪化
注:
1.中度患者の場合、STA-1の治療効果が対照薬より優れていること
2.重度と軽度患者の場合、STA-1の治療効果が対照薬と相似していること
軽度(46例) 63.04% 34.78% 2.17%
中度(61例) 34.43% 44.26% 21.31% 0.00%
重度(9例) 22.22% 55.56% 22.22%

治療効果判定基準:ニモジピン治療効果判定基準と上海精神衛生研究所によるドネペジル(Donepezil)臨床治療効果判定基準

Ⅲ期臨床試験

試験形式:本試験では適時に陽性薬並行対照を、複数の研究所で行った。
Ⅲ期臨床研究被験人数:429例

入選人数 処方案要求達成者 削除/脱落 服薬後治療未終了者
試験組(MemoregainⓉ) 333 318 15 322(4)
対照組(Hydergine) 111 107 4 107(0)
合計 444 425 19 429(4)

治験結果:

治療過程:3ヶ月 STA-1:2’s tid 対照藥((Hydergine): 2’s tid
総有效率 知能状態(MMSE) 社会行動能力(BBS) 日常生活機能(ADL) 中医証候
試験組(MemoregainⓉ) 77.74% 72.10% 57.37% 91.19%
対照組(Hydergine) 64.15% 62.26% 38.68% 66.98%
中度(61例) 34.43% 44.26% 21.31% 0.00%
重度(9例) 22.22% 55.56% 22.22%

✽STA-1の副作用反応発生率:統計分析:P<0.05
STA-1による各病状レベルに対する治療効果分析

治癒/重度から軽度への好転 重度から中度/中度から軽度への好転 変化なし 悪化 注:
1. 中度患者の場合、STA-1の治療効果が対照薬より優れていること
2. 対照薬で重度患者に入選されなかったこと
軽度(137例) 83.94% 16.06% 0.00%
中度(182例) 37.36% 49.45% 13.19% 0.00%
重度(3例) 66.67% 33.33% 0.00%

治療効果判定基準:ニモジピン治療効果判定基準と上海精神衛生研究所によるドネペジル(Donepezil)臨床治療効果判定基準

四、作用メカニズム研究:
フェニルエチルアルコール類化合物による神経細胞の成長促進と神経細胞の衰退活性の抑制についての研究

acteoside

acteoside
アクテオシド

Control

アクテオシドのドパミンニューロンに対する保護作用
Control

Treated by MPP+

アクテオシドのドパミンニューロンに対する保護作用
Treated by MPP+

MPP++类叶升麻苷

アクテオシドのドパミンニューロンに対する保護作用
MPP++类叶升麻苷

MPP+ and Ac-DEVD-CHO

アクテオシドのドパミンニューロンに対する保護作用
MPP+ and Ac-DEVD-CHO

对照组

鶏胚背根節培養試験
对照组

类叶升麻苷

鶏胚背根節培養試験
类叶升麻苷

MPP+

鶏胚背根節培養試験
MPP+
左からa b c d e f g h

アクテオシドによるMPP+起因のCGNsのcaspase-3酵素活性化抑制

アクテオシドによるMPP+起因のCGNsのcaspase-3酵素活性化抑制

アクテオシド(acteoside)のOA起因による神経細胞損傷模型に対する保護作用

縦MTT (OD550nm) 横acteoside(mg/ml)

縦MTT (OD550nm) 横acteoside(mg/ml)

五、単体化合物の活性の有無

アクテオシドのスコポラミン起因による記憶獲得障害のマウス模型に対する影響(台跳躍法)

縦Latency (sec)

縦Latency (sec)

縦Error (n)

縦Error (n)

アクテオシドのスコポラミンマウス模型の皮質アセチルコリンエステラーゼに対する影響

縦AchE (u/mg)

縦AchE (u/mg)

アクテオシドのスコポラミンマウス模型紋状体のMレセプターに対する影響

縦Bmax (fmol/mg)

縦Bmax (fmol/mg)

 六、フェニルエチルアルコール類成分の体内代謝研究

 ビーグル犬のフェニルエチルアルコール経口服用後の胃内の主要成分の変化

ビーグル犬のフェニルエチルアルコール経口服用後の胃内の主要成分の変化

ビーグル犬のフェニルエチルアルコール経口服用後の胃内の主要成分の変化

ビーグル犬のフェニルエチルアルコール経口服用後の腸内と糞便中の主要成分の変化

ビーグル犬のフェニルエチルアルコール経口服用後の腸内と糞便中の主要成分の変化

ビーグル犬のフェニルエチルアルコール経口服用後の腸内と糞便中の主要成分の変化

フェニルエチルアルコール類成分の胃腸道代謝

echinacoside

echinacoside
エキナコシド

→胃腸道代謝→ 

acteoside

acteoside
アクテオシド

エキナコシド(echinacoside)のラット胆汁代謝物内の構造

M1

M1

M2

M2

M3

M3

M4

M4

M5

M5

M6

M6

M7

M7

M8

M8

胆汁代謝物の抗酸化活性

ug/ml M1 M2 M3 M4 M5 M6 M7 M8 ECH VC VC(%)
100 95.3 95.0 91.9 93.7 95.0 95.6 96.1 95.7 95.1 6 86.3
10 77.8 74.1 70.7 78.5 88.2 88.1 92.5 79.9 91.7 0.6 12.4
1 38.6 40.7 30.3 34.4 79.0 49.1 50.1 34.1 60.1 0.06 4.8
0.1 18.1 6.8 8.7 12.2 15.7 20.1 23.6 44.7 24.8 0.006 -6.0

 

尿代謝物のMPP+起因の神経細胞衰退に対する保護作用

尿代謝物のMPP+起因の神経細胞衰退に対する保護作用

尿代謝物のMPP+起因の神経細胞衰退に対する保護作用

化合物 濃度 OD±SD
µ g/ml
対照 1.555±0.049
模型 1.314±0.018###
1 40ug/ml 1.929±0.058***
2 40ug/ml 1.607±0.052***
3 40ug/ml 1.344±0.044
5 40ug/ml 1.404±0.109
6 40ug/ml 1.243±0.051
7 40ug/ml 1.418±0.041***
8 40ug/ml 1.258±0.084
9 40ug/ml 1.705±0.597***

七、ニクジュヨウ多糖の化学構造および免疫調節活性の研究

1、ニクジュヨウ多糖の化学構造

分離鑑定した17個の均多糖

  • Glucans: 5個
  • Arabinogalactans:4個
  • Galactan:1個
  • Mannoglucan:2個
  • Galactoglucan:2個
  • 雑多糖:1個
Glucan

Glucan

Galactan

Galactan

Arabinogalactan

Arabinogalactan

Galactoglucan

Galactoglucan

→(6Galp1)4→4GalCOOCH31→4GalCOOCH31→4GlcA1→(4GalCOOCH31)2→4Galp1→
about 56% Gal with highly branched side chain consisting of (1→5)-linked Araf, (1→3,5)-linked Araf and (1→4)-linked Glcp by O-3 or O-4 of (1→6)-linked Gal and O-3 of (1→4)-linked Gal, which intercross mutually forming a ringed arabinogalactan.

ウロン酸を持つ雑多糖

 

ACDP-3  1.6×104

ACDP-3 1.6×104

ADP-1  >2×106

ADP-1 >2×106

部分多糖免疫活性試験結果

部分多糖免疫活性試験結果

ADP-1構効関係研究結果

ADP-1構効関係研究結果